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ねえ [詩]

ねえ      高平 九

「ねえ、あの水銀灯の下に立つとね。男も女も綺麗に見えるんだって」冬の駅舎で
貴女は言った。白いモヘアのコートの腕が、僕の腕に絡んでホームの外れに引いて
行く。「どう、あたしきれいに見える」二つ年上の女性の酔いに火照った顔を見つ
めた。形のよい唇から漏れる息が、初めての距離を感じさせた。ふいに貴女が柔ら
な身体をあずけてきた。「せ、先輩」「踊ろう」どこからかクリスマスソングが聞
こえている。耳元に貴女のハミングを聞きながら、たどたどしいステップを踏んだ。
「うまいじゃない」銀色の光のシャワーに幻惑されたのだろうか、ふわふわのコー
トにくるまれた貴女の熱い身体を思わず抱きしめていた。「痛いよ」「ごめんなさ
い」「謝らないで」。終電車が来た。「最後まで、送ってくれないの」発車ベルの
中、貴女は言った。一歩を踏み出せない僕に、貴女の唇が硬く引き締まる。ドアが
閉まった。<よわむし>音のない声がいつまでも、そして、今でも消えない。

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