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九の近況(11)~私の2022年~(2)小説 [その他]

小説

今年は第25回「伊豆文学賞」の佳作に選んでいただきました。『戸川半兵衛の黒はんべ』という作品です。

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私は東京で生まれましたが、1歳から18歳まで静岡市の清水で過ごしました。千葉に来たとき初めて黒はんぺん(かつては「黒はんべ」と呼ばれていました)が静岡にしかないことを知り愕然としました。黒はんぺんは私の大好物だったからです。母校の岡小学校の近くにはおでんを食べさせる店があって友達とよく行きました。駄菓子も売っていたので小学生でも入りやすかったのだと思います。それに串に刺したおでんは1本5円か10円で子どもでも買い食いできるような安価な食べ物でした。静岡のおでんは円い釜で炊かれて、真ん中にある味噌を自分で付けて食べました。その甘い味噌が私は好きでした。具材の中でも黒はんぺんは大人気でした。家庭で食べるときは大人はちょっと炙ってショウガ醤油などで食べまていました。フライにしても美味しかった。子どもはおやつとして生でかじっていました。

黒はんぺんはイワシやアジ、サバなどを材料としています。これらを骨ごとすり身にして、つなぎの澱粉、塩、砂糖を加え皿などの高台に半分塗って型をとって茹でます。「はんぺん」という名は高台の半分にだけ塗りつけたことから名付けられたそうです。骨ごとすり身にすることでわずかなジャリジャリした舌触りが残ります。

そんな清水っ子のソウルフード「黒はんべ」を創ったのが小学校中学校の同級生秋山君のご祖先であることを知ったのは最近になってからです。秋山君とは同じクラスになったことはありませんが共通の友人はたくさんいます。それらの友人たちを介してFacebookでつながることができました。秋山君は天才です。スポーツにおける実績は素晴らしく、オーダーメイドのジーンズショップの経営のかたわら動物の飼育にも熱心で、地元のテレビ局の取材を受けたこともあります。最近では廃材を利用したアーティストとしても活躍しています。そんな秋山君を知ると先祖が黒はんぺんを創ったという話も説得力がありました。いつもは口数の少ない秋山君のお父様が酔うと御先祖が黒はんぺんを作ったという話をしていたそうです。家族の歴史が江戸時代から親から子へとつながれて来たという話は魅力的でした。

この話に興味を持った私はまずは黒はんぺんの起源について文献を調べはじめました。ところが起源として挙げられている文献のどこにも該当の記事を見つけることができませんでした。念のため他の文献も調べましたが、私の調べた限りでは黒はんぺんにつながる記事はどこにもありませんでした。仕方なく秋山君の話を中心にほとんど私の想像で書き上げました。
秋山君の話はとても詳細で説得力がありました。当時の網は粗くてシラスや桜エビは捕獲できなかったこと、イワシの重さで船が転覆したなどのエピソードはすべて彼の話をもとにしています。秋山くんの話がなければこの物語は生まれなかったと思います。

1つだけ変更したことがあります。秋山君の話では隠居した徳川家康が豊漁のイワシのほとんどを捨ててしまうことを惜しんで賄方の戸川半兵衛に新しい食べ方を考案するように命じたとありました。まだ肥料としての干鰯(ほしか)が普及していない時代のことです。半兵衛は秋山くんの御先祖である清水の網元秋山仁右衛門に相談し、仁右衛門が考案されたのが「黒はんべ」だったそうです。
これを私は家康の孫である駿河大納言忠長が駿府城にいたときの話に変えました。家光と忠長の確執については以前から書きたいと思っていたからです。特に忠長の乱心を伝える家光側の勝者のストーリーに反発を感じていました。しかしながら、今思えば家康のままの方がほんわかした優しい話になったような気もします。この作品を読んでみたい方は直接出版社にお問い合わせください。

第二十五回「伊豆文学賞」優秀作品集 羽衣出版(054-238-2061) 定価1,400円
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拙作の他、最優秀賞『海豚』(髙部 努)、優秀賞『黒潮の岬』(江尻七平)、佳作『ラスト・ソングス』(シズカ・クサナギ)をお読みいただけます。いずれも読み応えのある作品ばかりです。またこれら〈小説・随筆・紀行文部門〉の他に〈掌編部門〉の優秀作品も掲載されています。

9月には同人誌「山田組文芸誌」の第7号が発行されました。同人は全部で5名。今回参加したのは3名でした。小さな同人誌ではありますが、これまで参加した同人誌はすべて3号を発行できずに終わっていましたので、第7号まで続けることができてよかったです。

今回のテーマは「映画」。今から半世紀以上前、私が中学1年のとき、従兄弟たちと『ローマの休日』を初めて観ました。そのときのことをもとに『ドリーム座の休日』という短編を書きました。他の2編も力作です。よろしければ読んでみてください。

山田組文芸部
https://note.com/yamadagumi
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この他はショートショートを1本書いて「BOOK SHORTS」の「第9回ブックショートアワード」に投稿しました。この賞は全国の民話やお伽噺などをもとにショートショート(5000字以内)を書いて投稿します。月ごとに優秀賞の発表があり、12月までの各月の優秀賞作品から大賞が選ばれます。大賞に選ばれた作品は映像化される可能性もあります。登録すればどなたでも参加できますよ。民話やお伽噺に想像力の羽をつけて飛ばすだけですから書きやすいですし、長さも手頃です。気軽に挑戦してみてください。

「BOOK SHORTS」
https://bookshorts.jp/

新しい小説の構想はいくつかあるのですがなかなか書き始められずにいます。
長編は2本。1本は以前書いた時代小説の続編、もう1本は第2次世界大戦を背景とした長編です。
短編は4本。2本は時代小説。2本は現代小説。それぞれ応募する文学賞も決まっています。
とにかく書くしかありません。駄作を恐れず書くだけです。

この他に3月に結果の出る応募作が2編あります。
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