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消しゴム [詩]

消しゴム  高平 九

消しゴムがない 文字を
舐めて消した昔、石斧でくだいた昔
神の火にくべた昔 文字が
人間と同じ重さで地球に乗っていた昔を
憶いながら
消しゴムをさがす

手が文具入れに迷って切れる

武器が まだ
手よりも少し硬いだけだった昔
農具がまちがって人を傷つけた昔
武器が まだ
人を愛することの方便なんかで
使われなかった昔を
思いながら
傷ついた指をなめる

消しゴム 消すこととゴムとは関係を明らかにしないまま
男女を遣る瀬ない遊びへと駆り立てる
遊びも 母の化身であり 海の残像であった昔
僕も孤独の皮をかぶって
まばらな陰毛を風にはこんでいたのに

消しゴム まちがって書き込まれた自分を
消すための 消しゴムを探して
そして見つからない
                    1980年

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