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九の近況(4) [小説]

「コロナめ、また来やがったか」と思っていたら夜中の津波警報。本当に何があるかわかりませんね。今も不安な日々を送っている方も多いと思います。お見舞い申し上げます。でも、せめて気持ちだけは元気でいましょうね。頑張らなくてもいいです。まずは自分と大切な人の心と体を守りましょう。

温かいものが食べられるといいですね。それだけで少し心も穏やかになる気がしませんか。実はそういう小説を書いて、「第25回伊豆文学賞」に応募したところ、ありがたいことに佳作をいただきました。『戸川半兵衛の黒はんべ』という作品です。昨年応募した作品はほとんど一次で落選していたので今年最初の結果が入賞でほっとしています。

この作品は静岡っ子のソウルフード「黒はんぺん」誕生について書いたものです。小学校中学校の同級生秋山君の御先祖が「黒はんぺん」の考案者だという話をFacebookで読んだのがきっかけでした。地元の人は「黒はんぺん」のことを「黒はんべ」と呼びます。皿の高台にイワシやアジのすり身を半分だけ塗って型取りをしたから「半片」と呼んだという説もあるのですが、静岡で隠居生活をしていた徳川家康が豊漁だったイワシの大半が捨てられるのを知って、賄方(まかないかた)の戸川半兵衛にイワシの料理を工夫をさせ、その料理を「半兵衛」の名から「はんべ」と名付けたという説もあります。秋山君の祖先は清水港の網元秋山仁左衛門という人物で、半兵衛から料理のことを相談されて妻とともに「黒はんべ」を考案したのだそうです。

黒はんぺん」はあまり日持ちがしないのでほとんど地元でしか売られていません。地元では駅の売店でも売られていて、私も静岡に行くと必ず土産に買って帰ります。色や味は「つみれ」に似てますけど風味が少し違います。半円形の「黒はんぺん」を串に刺して静岡おでんの味噌につけて食べると実にうまい。少し炙って醤油を垂らして食べてもおいしいです。フライも好き。もちろん生でも食べられます。子どもの頃はおやつ代わりに食べていました。私は「はんぺん」と言えば「黒はんぺん」だと思っていたので、静岡を離れてからおでんに入っている白いはんぺんを見て驚きました。今でもはんぺんとお茶は静岡のものが一番だと思っています。静岡名物「黒はんべ」、まだ食べたことがない方はぜひ味わってみてください。


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小説の話に戻ります。私の小説に大御所を出すのはちょっと敷居が高かったので、設定を孫の駿河大納言忠長に変えました。松平忠長は一般的には3代将軍をめぐる実兄家光との政争に負けて乱心したということになっています。しかし、常に歴史は勝者によって作られるものです。忠長の乱行と伝えられていることが実際は家光サイドの陰謀だったと解釈して、「黒はんべ」ができた経緯と重ねて小説にまとめました。もちろんほとんどは私の妄想ですが、美味しいものを食べると心も穏やかになるというような小さな真実もいくつか仕込んであります。

入賞作品をまとめた本が3月に出版される予定だそうです。興味のある方は読んでみてください。

第3回京都文学賞」にも応募しました。『羅生門の猫』という作品です。一次選考で218篇中32篇までは入ったのですが、二次選考の6篇には残ることができませんでした。力不足を痛感しています。「最終選考に入らなければどこで落とされても同じ」というある作家の言葉が痛いです。

この作品は、同級生たちに鴨川に落とされた女子高生がタイムワープして、子猫の晴明やタイムパトロールの道遠とともに平安時代や戦国時代、江戸時代などへ時間旅行をする話です。はじめてのSFだったので楽しんで書きました。結果はともかく大好きな作品です。誰か読んでください(笑)

戯曲の方では、私の書き下ろした『オカリナの少年~クロスロード2』が今年12月4日の座・劇列車第32回本公演の上演作品として選ばれました。演出も私がやることになりました。本公演の作・演出ははじめてなので緊張しています。
この作品は、2016年に上演した『クロスロード~運命をつなぐ四つ辻』の続編です。ただし続編と言ってもほとんどつながりはありません。共通しているのは地元四街道を舞台としていることと、どちらにも小野ときというお婆さんが出てくることくらいです。前作は「四街道」という地名の元になったと言われる四つ辻(四街道十字路・諸説あります)が舞台でしたが、今作の舞台は公演会場四街道文化センターの近くにある「ルボン山」と、その隣に戦中まであった陸軍野砲兵学校です。戦争の末期、15歳から18歳までの少年がこの野砲兵学校で下士官になるための教育を受け、一期生、二期生はフィリピンなどの激戦地に送られました。主人公はその少年兵の一人です。 長い間劇列車を指導していただいた西田了先生が「四街道に生まれた子たちが地元を故郷と思えるような作品を作りなさい」とよくおっしゃっていました。『クロスロード』の公演後、四街道十字路を見に行ってくださったお客様がいらしたという話を耳にしました。とても嬉しく思いました。四街道にいながらルボン山のことをよく知らない人もいるようです。今回の作品も帰りにちょっとルボン山に寄ってみようかという方がいればいいですね。地元に愛着を持つには、その土地にふさわしい「物語」が必要だと私は思っています。

ルボン山」、変な名前でしょう。正式には「大土手山」というそうです。四街道で芝居をするようになってから何人かの人に「ルボン山」について教えられたので、四街道の人は皆さん知っているのかとも思いきや、劇団員の中にも大土手山をルボン山と呼ぶことさえ知らない人がいました。さて、なんで「ルボン山」なのでしょう。答えを知りたい方はぜひ公演を観にいらしてください。小野ときさんから詳しい説明がありますよ(笑)

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12月4日(日)座・劇列車第32回本公演『オカリナの少年~クロスロード2』よろしくお願いいたします。 また、長々と書いてしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。

↓ 『クロスロード~運命をつなぐ四つ辻』(2016)の画像とチラシ

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