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解体 [詩]

 解 体  高平 九


ある日 心臓のハミダシに
指紋を四つ 見つけた
いったい誰が いつどんな風に
触れたのだろうか
こんなに深々と
渦巻くように

いつまでも
いつまでも 巻き戻される
故郷への電話番号のように
棄てた女の誕情日を
暗礁番号にしたキャッシュカードのように
失忘録に消えゆく
暗号で記された

それは遠い昔
(銀鳥の群翔ける夜を)
空という空の裏側へ折り返されては
透けていった子供たちが
(その小さな水色の工房から
ねぢれるトコンベアーで)
表で渇いている女たちに贈った
愛の部品の
製造番号なのでしょうか

どうも間違ってつけられたらしい他人の心臓
水晶占い型ゼンマイ式大脳
たぶん黒旗一枚分の皮
柔突起のそよぐ森を内蔵した小腸
握りのついたホネ
同じくクサレ蛇口と 漏れる みず

曇りがちな眼
見ていると雨ふりばかりの町
憂人用暗色仮面(ただし贋物)
グリコのキャラメルにおまけでついているおふくろ
下顎に残ったまばらな歯のように傾いた電柱の群れ
あわいをゆるんでゆく河に
         ゆ め
もんどりうつ夢女 記憶の地下街に
見えかくれする女の
ゆめ



そんなものすべてに
うずまく暗号をたしかめながら
気がつくと僕は
不安定なりに纒まっていた僕を
すっかりバラしていた

暗号も解けないで
散乱した部品を広げて
僕は
いち枚の空模様の 僕の  
設計図を
捜している   
             1980年作

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