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詩2題 [詩]




子育てについて     高平 九

わたしの子育ては間違いだらけ
もっと絵本を読んでやればよかった
もっとクラシックを聴かせてやればよかった
もっと積み木や段ボールを与えて創造的な遊びをさせればよかった
テレビなんか見せるんじゃなかった
「となりのトトロ」をくりかえし見せれば大人しくしていたけど、宮﨑さんも言っている
「わたしの作品なんか一度見れば十分。それより本物を見につれていってください」
今思えばなんで自転車の乗り方ぐらい教えなかったのか
食べ物の好き嫌いもずいぶんあるし
グローブを買ってもキャッチボールをしたのは一度きり
サッカーもろくにできない

でも、いやだからこそわたしの子は優しい
わたしの子は美しい歌をつくり、うつくしい声で歌う
そして、勝手にステキな若者になった
わたしの密かな願いのように大道芸人にはならなかったが
やがて何かになるだろう
それでいい。
何か文句がありますか?


おらの戦争   

おら、戦(いくさ)にゃいかねえ
人をぶっ殺すのも人にぶっ殺されるのも嫌だ
おら、お国のために死ぬなんてわかんねえもの
お父(とう)のような百姓になって毎日野良で汗みどろではたらく
そのうち嫁っこもらったら 2人して土まみれになって笑い合う
お父もお母もいつか死ぬべ
でも 弾に当たったり爆弾で吹っとばされて死なせんのはまっぴらだ
あったけえ布団の上 いやそれよりか
日よりのええ日に野良で働きながら さっきまで元気にくだらねえことしゃべってた
と思ったら、死んでた
そんなんがええなあ
どっちみち 兵隊にとられんのはおらたちみてえな貧乏人と相場が決まってんだべ
お役人や金持ちの子は後方支援とかいって弾の飛んでこねえとこさいて
すべて終わってから「命がけでお国に奉公した」なんて言うんだべ
お天頭さまあええなあ だれも平等に照らしてける
お上っつうのが照らすのはいつも一部のお偉方だ
そんなもののために命かけんのは金輪際いやだ
だからよ おめえも戦なんていくな
母ちゃん泣くべ
姉ちゃん泣くべ
だからよお……


タグ: 戦争 子育て

詩 卒業のソネット [詩]

卒業のソネット     高平 九

くたびれた上靴が 今日だけはおとなしく並んで
壇上のあなたの背中を見つめている
あなたは年寄りの繰り言のようなことばを
長々とつむいでいた

青春をまき散らしたフロア 今日はなんのにおいもしない
ボールが弾ける音もない
私は思わず透明なスコアボードを見た
この3年間の試合にわたしは勝ちを得たのだろうか

鋭く響く試合終了のホイッスルを聴いたように
あなたの背中がふいに震える
優しい歌がはじまり 雨の音がそれに重なる

桜は散ってしまうだろう
笑顔で卒業証書を振り上げながら
わたしたちは雨の中に飛び出してゆく

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詩(五編) [詩]

久しぶりに詩を読んでください。

詩(五編)



からだを寄せ合うより
こころを寄せ合う方が
大きくて
あたたかい。
だから この家は
いつも満点だ。



ひとりは
こころの根っこを
太くする。
いつか 遠くにある
何かにむかって
枝を伸ばすための
今の孤独(ひとり)だ。



真剣に云えば云うほど
言葉は硬(こわ)くなる。
だから
軽く云っちゃえ
好きだなんて。



ゆふべも 夢の中で
ぼくは 人を殺した。
こんな風に
本当の僕は いつも
現実より ひとまわり
危険だ。



愛してるなんて
云ってしまうと 心が
空っぽになりそうで
だから ぢっとがまんする
愛が熟して
どおん と落ちるまで。

(2008年作)

拙い詩を読んでいただきありがとう。
どんなことも誰かの役に立つことを信じて
恥ずかしながら掲載してみました。
あなたの明日が今日より
輝いていますように。


あの日に帰ろう [詩]

あの日に帰ろう    高平 九

あの日に帰りたいな
転勤のための掃除をしながら
同僚が言った。
あの日はいつがいい。
俺が契約を取れなかった前の日なんかどうかな
それとも震災の前かい
それとも、あの人が砂漠で撃たれた日か。
それはどうだろう
戻ったとしても僕たちに何ができる。

じゃああたしが生まれる前は
夕食の席でお前が言った。
それならあたしもやり直せるし
お前がぽつりと言った本心。
でもね
妻が言う
そうだな
父が言う
どんなにうまくいかなくても
お前は今のお前である以上に
美しくも優しくもないはずだから
そう
自慢の娘だから。

夜、ベッドの中で。
君と恋に落ちる前に戻っても
また、もう一度君に出逢えるなら
それもいいな。
ほんとに?
あたしは嫌
とってもつらかったもの
あなたの気持ちが見えなかったり
あなたに捨てられたらって思ったら
生きた心地がしなかった。
それなら、今だって
君を失ったらと思うと。

抱いている女のことより、次に抱く女のことばかり考えていた
二十代か
それとも泥まみれで走りながら
一方で裸の女の妄想を追いかけ
精液をまき散らしていたハイティーンのころか
友情を叫びながら
心のナイフでいつも自分と相手をめった斬りに切り裂いていた
ローティーンのころだだというのか。
ごめんだ
あんなみじめなガキのころに戻るのはまっぴらだ。

なら
やはり子ども時代。
だれもが自分を愛するという幻想に酔い痴れていたあのころ
だれも愛する必要などなく、ただ愛されることに微笑んでいれば
世界が微笑み返してくれる。
光があふれるあのころに戻れるなら
こんなくすんだ運命に背を向けて
帰ってもいいな
あの頃に。

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はじまり [詩]

はじまり      高平 九

「困っちゃった。」行きつけの喫茶店のカウンターでふいに君は言った。
「今日、アツシ君たら『先生、人間がどこから生まれるか知ってる?』って」
 君は小四の子供の家庭教師をしていた。
「あたしが困ってるとね。『あのね、人間ってその人のいちばん綺麗なところから生まれるんだよ』だって」
 皙い指がゆっくりと髪をかきあげた。まるで千年も前からこの瞬間にそうすることが決まっていたかのように。
「かわいいのよ」
 君は珈琲茶碗を掌の中に包んで言った。
「『先生は、その髪から生まれてきたんだね』ですって、……ねっかわいいでしょ。」
 動揺していた。「僕も」言いさして急に恥ずかしくなった。小四のアツシに僕は嫉妬していた。「そう思うよ」
 君の横顔がかすかに震えながらマンデリンを啜った。二人の間を沈黙がしずかにあふれる。僕がそれに溺れそうになった時、君がスプーンで掬えそうな小さな「ありがとう」と言った。

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etc. [詩]

etc.      高平 九

ボールが一つ転がった。台風に裸にされた木々の下のベンチで、老人の細い手がそ
れを拾い上げる。「これはあんたの宝ものかい。」ボールの後を追ってきた少年に
老人は聞いた。「あんたの人生にはな、これより大切なものは二つしかない。それ
は、恋と死さ。後はすべてエトセトラだ。」「えとせとら?へんなの。」駆け去る
少年を静かな笑みが見送る。私もそれにならう。少年が父親らしい男のもとに行き
着くのを見届けてから振り返ると、いつの間にか老人の隣に寄り添う白い老婆があ
り、小さな顔が老人に頬ずりをするところだった。「待たせたわね。」はにかみな
がら、くすぐったそうに身をよじる老人。「人生に大切なものはお前だけだった。
あとは」老婆が引き継いで「エトセトラですね。」二人は声を上げて笑う。そこへ、
またボールが転がった。だが、それを拾い上げる手は、もうなかった。

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おわり [詩]

おわり   高平 九

「そうね、もう逢わない方がいいのよね」目の前に展いている乾いた海に、ささく
れのような波が音もなく立っては消えた。「そうよね」繰り返す君の声はかすれ、
二人が座っている流木の洞を吹き抜ける風の音のようにさびしい。「もう、終わり
にしよう」そう言いかけた時だ。ひんやりとした湿りがまるで風にあおられた女性
の髪のように僕の片頬を撫でた。「あら」背筋を伸ばして空を仰ぐ君の額や瞼や唇
を何かが濡らしはじめる。やがて君が閉じていた目をひらくと、暗い空を映した瞳
からそれはあふれて、長い睫毛がその重みに震えた。頬をつたい、顎から流木へ、
砂浜へと、滂沱と流れ落ちる水。それは流木の周りの砂を黒く染めると、なおも波
紋のように広がって世界を潤してゆく。空き瓶や波打ち際や古びた灯台や難破船。
タンカーや雲の群れや鴎や鯨。世界が幻の洪水に巻かれるのを見た僕が「ねえ、ご
覧」と君をふりむいてもそこには誰もいない。豊かにたゆたう海のほかには。

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 [詩]

      高平 九

年老いた道化師が晩秋の町にいた。銀杏の葉が風に舞うなかを一心に人形を演じて
いる。今日でこの町との契約も切れるのだが、彼には次の町へと流れるあても気力
もなかった。白く塗った顔にふと哀しみが浮かんでしまいそうになるのを必死に耐
えていた。行き過ぎる人々の誰もが彼を一瞥しただけで温かなメッセージを感じ、
心の底から安らぐのだが、一人として何かを返そうとは考えない。ふと道化師の前
に風船が止まった。茶色の瞳の少女が不思議そうに見上げている。彼は今まで何十
年も子供たちに注いだのと同じ笑顔を見せた。しかし少女はただ瞳を曇らせて走り
去ってしまった。老人の気力はにわかに萎えた。膝をついて天を仰ぐと、灰色の深
みから何かが降ってきて、額にやさしくさわった。まるで小さな天使の群れがやっ
てくるようじゃないか、満足した道化師はそっと目を閉じる。雪は彼を庇うように
白く降り続き、やがて雪の止んだとき彼の姿はもうそこにはなかった。


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 [詩]

       高平 九

ホームに立った瞬間めまいがした。階段を急いで駆け下りたせいだろう。膝も微か
に震えている。終電車はがらんとした車窓を並べてすでに滑り出していた。「クソ
ッ、またかよ」タクシー代とカプセルホテル代を天秤にかけながらふと見上げると、
薄暗い灯の下に自分と同じような男の姿がある。追っていって肩をポンと叩きたい
衝動にかられて緩めた頬が強張った。白線を踏んでいた彼の右足が不自然に上がり、
支えを求めて伸ばした手が加速する車体に触れるのを見たからだ。電車から激しい
平手打ちを受けた彼の身体が、ホームの柱にごんと打ちつけられ、回転しながら跳
ね返されて、魔人がランプに吸われるように車輪の下へと消えた。その時だ。何か
が赤い紐を引きながら飛んだ。それは硬いホームの上で2度3度跳ねたかと思うと、
発狂したようなブレーキ音の中を私の靴先にひたと止まり、ピク、ピクと動いた。
「なんだ耳か」私は思わず笑っていた。そして、その笑いは朝まで収まらなかった。


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ねえ [詩]

ねえ      高平 九

「ねえ、あの水銀灯の下に立つとね。男も女も綺麗に見えるんだって」冬の駅舎で
貴女は言った。白いモヘアのコートの腕が、僕の腕に絡んでホームの外れに引いて
行く。「どう、あたしきれいに見える」二つ年上の女性の酔いに火照った顔を見つ
めた。形のよい唇から漏れる息が、初めての距離を感じさせた。ふいに貴女が柔ら
な身体をあずけてきた。「せ、先輩」「踊ろう」どこからかクリスマスソングが聞
こえている。耳元に貴女のハミングを聞きながら、たどたどしいステップを踏んだ。
「うまいじゃない」銀色の光のシャワーに幻惑されたのだろうか、ふわふわのコー
トにくるまれた貴女の熱い身体を思わず抱きしめていた。「痛いよ」「ごめんなさ
い」「謝らないで」。終電車が来た。「最後まで、送ってくれないの」発車ベルの
中、貴女は言った。一歩を踏み出せない僕に、貴女の唇が硬く引き締まる。ドアが
閉まった。<よわむし>音のない声がいつまでも、そして、今でも消えない。

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