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歌(詩) [詩]

詩 「歌」   高平 九

トリが神様を讃える歌を作った。
神様はたいそう喜んだが、ネズミだけは歌わなかった。
トリはネズミに文句を言い、トラに今度歌わなかったら食ってしまえと命じた。
ネズミはそれでも歌わなかった。神様が嫌いなわけでも神様への感謝がないわけでもない。でも歌えと命令されるのが嫌だった。ネズミはトラに食われてしまった。でも、ネズミはたくさんいるのですぐに代わりがやってきた。どのネズミも歌を拒否して食われてしまった。
1年に一度神様を讃える日がやってきた。トリはここぞとばかりに神様を讃える歌をみんなに歌わせた。やはりネズミだけが歌わなかった。そこで、トリは神様に訴えた。
「ネズミめはいくら言っても神様を讃える歌を歌いません。こんなものが干支の一番にいるのは納得できません。どうか神様を讃える歌を作ったわたくしを一番にしてください」
神様は言った。
「トリよ。わたくしを讃える歌を作ってくれたことには感謝しておる。じゃがな、他のものに歌えと無理強いするのはどうかのお。感謝は歌うことだけではない。それぞれのもののやり方に任せるべきじゃ」
その言葉を聞いたトリは自分の忖度が謝りであったことに初めて気づいた。トリがネズミに謝罪をするとそれからはネズミも神様を讃える歌を大きな声で歌うようになったとさ。

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その会議(詩) [詩]

詩 その会議    高平 九

その会議では、
その世界の危機について語り合った。

「全員を救うべきだ」とネズミが言い張った。
「それは無理なのだ」とウシ博士が反論した。
「なんでですか」
「ふむ。船の乗せる数には限りがある。わしの計算では、全員乗せれば船は必ず沈んでしまうのだ」
「そんなのやってみないとわからないじゃないですか」
「やってみてダメでしたで許されると思うか」
「それは……」
ネズミは黙ってしまった。
「問題は誰を優先的に船に乗せるかだな」とトラ宰相が偉そうに言った。
「私たちは神様から選ばれたものです。当然先に乗るべきでしょう」とウサギがすかさず言った。
「そりゃそうじゃ」とタツ教授も言った。
「最初に乗り込むのはトラ様でげすね。お知り合いのトラの皆さんもお先にどうぞどうぞ。へへへ」とヘビは赤い舌をチョロチョロさせた。
「あたしらはその後からでいいですわ」とウマ女史までが言い出した。
「貴様らは自分たちさえ助かればいいのか。それが神様に選ばれたもののすることか」と噛みついたネズミを、
「偽善者」とヒツジがからかった。
「なんだと!」
「仕方ねえよ。弱肉強食は俺らのルールじゃん」と言ったのはサル。
そのとき、
「ハームリダクション」とウシ博士が重々しく呟いた。
「何よそれ」欠伸をしながらトリ。
「害悪の軽減かあ」
イヌがしたり顔で言った。
「災厄は避けることができないのだ。全員を救おうとすれば全員が命を失う危険がある。だとしたら被害を最小限に抑えるべきなのだ」
ウシ博士の言葉は鈍いだけに重みがあった。
「ヤク中に新しい注射器配ったり、路上売春してる奴にゴムを渡したりするあれだろう。完全になくすことができないのなら少しでも害悪を減らそうってことか」またイヌが言った。
「なるほど、多くのものを救うためにはある程度の犠牲はやむを得ないということですね」
真っ白なウサギが言った。
「そんな……」
「問題は誰を乗せないかだ」トラ宰相が言った。
「そりゃあ神様に選ばれなかった連中でしょう」と言ったのはウサギ。
「どうじゃろう。集まる時刻をわざと間違えて伝えるのじゃ」提案したのはタツ教授。
「そんなら足の遅いあっしも先に乗れまさあ。でも遅れた連中が黙っていませんぜ」とヘビ。
「遅れても乗れた方たちは本気で怒ったりしませんわ。だって命が助かるんですもの。ほほほ」とウマ女史。
「乗れなかった連中はちょっと可哀想だな」同情したふりをしたのはヒツジ。
「その時は船の上からみんなで頭を下げればいいんじゃねえ、このたびは申し訳ありませんでしたってさ」と神妙に謝罪の真似をするサル。
ネズミとウシ博士以外のみんなが笑った。
「君たち不謹慎だぞ。尊い犠牲を払ってもらうのだ。敬意を払いたまえ。敬意を……」とトラ宰相がおどけて言うと笑いはさらに大きくなる。
「狂ってる」ネズミの呟き。
「なんだって? 声が小さくて聞こえなかったぞ」それまで黙って議事録をつけていたイノシシがネズミを責めるように言った。
「みんな狂ってる。犠牲になるのが自分の仲間でもそうやって笑っていられるのか」
ネズミは精一杯の大声で訴えた。
「だったら、あんたの一族が乗らないってはどうだい。小さくても数だけは多いから、その分かなりの命を救えるはずだな」とヒツジが言うと、
「そうよそうよ。偉そうなことを言うならあんたが犠牲になりなさいよ」とウマ女史が鼻息荒く言った。
「それは……できない」
ネズミは頭を抱えた。
「議論は尽くされた。いにしえより偉業をなすには犠牲はつきものだ。皆のもの良いな」
トラ宰相が言うとネズミ以外のものが「ははー」とひれ伏した。
「それから、ここで話し合ったことはけして口外しないこと。広く知らしめることでもないし、ましてや歴史に残して益のあることでもない。議事録はとらなかったこととする」
イノシシが顔を上げて「えっ?」という顔をしたが、その隙にヒツジが議事録を食べてしまいましたとさ。

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詩 優しい人 [詩]

優しい人 高平 九

それは私たちから一人の喜劇人を奪った
人間も動物もへだてなく愛したあの人を
笑わせることに命懸けだったあの人を
時に理不尽な批判にさらされても
いつも子供の思いに寄り添い
一人ひとりの小さな笑顔を大切にした
あの人を

それは今日も一人の女優を私たちから奪った
家族をこよなく愛した人だった
その愛は誰の妻を演じても
誰の母を演じても同じだったから
私たちはその愛を信じることができた
その人の明るさに
誰もが暗い日常から救われた

それは優しい人ばかりを私たちから奪っていく
理不尽に
無遠慮に
無差別に
だから
私は負けない
それが尻尾を巻いて消えるまでけして負けることはない
これだけが奪われてしまった優しい人への
たったひとつのレクイエムだから

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詩 それは [詩]

それは  高平九

それはどこからきたのでしょう
空を壊したからでしょうか
山を崩したからでしょうか
海や森を欲望にかえたからでしょうか

動物達は行き場を失い
人と交わり
見えないものを身にとりこんで
それを小さな刃にしたのでしょうか

それは今ここにいます
ささやかな反乱は大きな災厄となり
水に流し風に化け
ついには深々とわたしたちを刺しました

それはどこへいくのでしょう
見えない因果は見えないものになり
わたしたちを散々に踏みつけて
明日を待ち伏せているのでしょうか

それとも
それともアンビギュイティに気付いた
あなたが銀河のブレーキを踏んで
神様の嘘について語りはじめるのでしょうか

それとも……

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詩 こんなときだから [詩]

こんなときだから   高平 九

こんなときだから
あの人を想いたい

こんなときだから
恋人とは愛を分かち合いたい
妻や夫とは我慢を分かち合いたい

こんなときだから
友とは「大丈夫?」を送りあいたい
隣人とは「いい天気ですね」と挨拶をしたい

こんなときだから
年寄りを気遣いたい
困っている人に寄り添いたい

こんなときでも
子供には笑っていてほしい
若者には明日を信じてほしい

こんなときだから
遠くの親類に無事を伝えたい
意見の異なる人と心で語りたい

こんなときだから
国境をなくしたい
人種を忘れたい
あらゆる差別を忘れたい
そして
イデオロギーよりも
宗教よりも
人間を信じたい

こんなときこそ
武器を置いて
手を振って合図をして
マスクを届けたり
アルコール消毒を勧めたり
トイレットペーパーを分けあったり
したい

こんなときなのに
私はこんなことをしたいと思う
こんなときに
あなたは何をしますか?

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詩 密室の道化師 [詩]

密室の道化師    高平 九

戦争は密室で起こっているから
外にいる僕らはみているしかない
いつの間にか僕らの場所が密室になるまで
僕らは戦争が起こったことにも気づかない

蝶々が指先のようになにかをつかもうともがくけれど
つかまるのはカラスの糞にまみれた案山子くらいだ
ああ、案山子ほど口がかたい奴はいない

アリは皆口をあけてつぶやくけど
何をつぶやいているかは互いに知らない
たとえそれが真実の甘い蜜であっても

誰かが老人たちをころす
今日もまた子供を優しい日常から拐ってゆく

道化師はひとり空を見上げ
奥歯をがりりと噛み締めた

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詩 「今日はなんだか」 [詩]

今日はなぜだろう道がとても狭い。
見上げた空もよそよそしい色。
放置自転車が錆びた声で歌っている。 真面目に生きてんじゃねえと。

今日はなぜだろう人がとても多い。
ネズミの街の息苦しさ。
明日を検索してみるけど君の名前さえわからない。

どこにも行けないかもしれない。誰にもつなげないかもしれない。でも、だから何だ。今はここにある。

明日がどうしてなんだとても遠い。
無性に海が見たくなる。
テレビをつけると昔の映画が恋をしている。


明日と今日は夢で結ばれていた
神話にはそう書かれている。
だけどさあとみんなが言う。何一つ肯定なんかしない。

どこにも行けないかもしれない、君に会えないかもしれない。でも、だから何だ。僕は君を目指す。

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詩「ここにいてはいけない」 [詩]

ここにいてはいけない    高平 九

ここにいてはいけない
ここは鋭利な二等辺三角形の頂点だから
ほんのわずかな体重移動で
それが心ない友人のひと言による心のゆらぎでも
夏のそよりと戦ぐ微風であっても
人は転落を免れない。

ここにいてはいけない
この場所に立つだけてあなたは嫉みの対象となる
アイドルのように蔑まれ
資産家のように泥まみれになり
高く飛ぶ鳥のように罵倒される
あなたを切りとる強烈なスポットライトで
毒いろに染め上げられてしまう。

ここにいてはいけない
そもそもここはあなたの場所ではない
あなたはその無垢な手で
彼をここから突き落としたばかりじゃないか
彼のぬくもりは掌に深く刻まれて
拭っても洗っても削っても消えたりしないのだから。

ここにいてもいいよという手口に耳を貸してはいけない
あの人はあなたにささやくことをやめない
あの手はあなたのポケットを探っている
そして、誰もが濡れた手であなたに触れようとしている
この世のメモ帳から有能な消しゴムはあなたを消している
今日も明日も。

ここにいてはいけない
かつてあなたの中で叫んでいた青臭い虫はもういない
あなたの尻ぬぐいをする笑顔たちは
透明なゴミ箱の中でもがいている
近くで見る山は複雑で面倒でぬかるんでいるのに
遠くで見る山はあんなにも青く切ない
あなたはもうあの場所に帰れない。

なので、あなたは
ここにいてはならない。


異郷のぞみし-空也十番勝負 青春篇 (双葉文庫)

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  • 作者: 佐伯 泰英
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫





プレミアホテル門司港(旧:門司港ホテル)

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詩 夢ひと夜 [詩]

夢を見た。
N子が仲間と岩盤浴に行った。そこが気に入ったから来いという。
行ってみると、そこは岩だらけの谷間。多くの人が家族や女性、男性同士のグループで来ていて、それぞれ和んでいる。N子が水着、それも黒に白い模様の入ったビキニでやってくる。
着いて行くが、いつものようにすぐにはぐれてしまう。四つ辻で待っているとN子が遠くに立って手を振っているのが見えた。

連れて行かれたのは、たくさんの木製の円いテーブルがぎっしりと置かれた場所。野天のようだ。
テーブルの周りには、これも隙間なく人々が姿勢正しく腰掛けている。澄まして無表情な人もいれば、笑顔の人もいる。怒っている人や悲しそうな人は、不思議とひとりもいない。話しかけたり、互いを見たりしない。まるで、自分しかそこにいないかのように静かに座っている。
目を凝らして見ると、T先生のほほ笑んだ顔が見える。
「最近、お会いしていないが、ああそうだったのか……」と思う。

小さな土産物屋もある。女将が何かつぶやいたが、顔も口元も、しゃべった内容も覚えていない。土産物はすべて白く干からびた野菜ばかりだ。

いつの間にか、木造りの長細い部屋に来た。目の前には、時代を吸って黒ずんだ木の扉がずらりと並んでいる。まるで昔の厠だ。そのどれかを開けて入れいうことのようだ。
私はちょうど真ん中あたりにある、木目のぎっしりと詰まった扉の、引き手の四角い穴に三本の指をかけた。

詩 恋ということ [詩]

恋 ということ  高平九

やわらかな若葉のひかりを浴びて
二人は 見つめ合う
二人は うなづきあい
そして二人は 笑い合う

強い日差しを避けるように
あるいは人の視線からはぐれるように
男と女は涼やかな木陰に入る
ひとりが 何かを語りはじめ
もうひとりが 足下を見つめる

女と男がふたたび光の中に現れたとき
風に向かって強い意思を伝えようとする人

雲を仰いで雨をおそれる人

立っている


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