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『信長公記』を読む [その他]

『地図と読む 現代語訳 信長公記』
(太田牛一 著/中川太古 訳)
を読みました。
2019年KADOKAWA刊。

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『信長公記』は『しんちょうこうき』と読みます。織田信長の家臣だった著者が見聞きしたことを詳細に綴ったものです。慶長の頃(1600年頃)に書かれたものだそうです。

記事は天文十一年(1542年)8月上旬の小豆坂の合戦から始まっています。三河に攻め寄せてきた駿河の今川義元の軍勢を織田信秀(信長の父)が迎え撃った戦です。次の記事は天文十五年の吉法師(信長)の元服と続きます。

最後の記事は天正十年(1582年)6月の本能寺の変を中心に、その後の安土城に残された人々の反応、徳川家康の去就で終わっています。

今回初めて読んでみて、合戦の有様が実に克明に書かれていることに驚きました。兵の動きや戦の推移だけではありません。誰が手柄を立て、誰が戦死し、敵将の誰の首をとったか。さらに手柄をあげた諸将に信長が与えた恩賞まで、まるで作者自身が公的な記録係だったのではないかと思うほど細かく書かれています。

他にも、買い上げた名物(茶器や絵画など)や諸将から献上された品々(馬や鷹が多い)なども詳細に書かれています。それにしても、馬や鷹の種類まで記されているのには驚きました。脚注には芦毛、鹿毛(かげ)がどんな馬なのかも書かれていて、全く知識がなくても読めるように工夫されています。

信長は乗馬の訓練を欠かさなかったようです。甲斐を通った僧侶が武田信玄にそのことを伝えています。また、戦のたびに信長自身が馬で状況を見てまわり采配をふるっていた様子も記載されています。

著者は青年期の信長に対してかなり辛辣に批判をしています。「おおうつけ(大馬鹿者)」と言われていたことや守役の平手正秀が実直でない信長に腹を立てて切腹したとはっきり書いています。ところが、美濃な斎藤道三と同盟を結んだあたりから、著者の評価も世間の評判も変わっていきます。後半では信長がどんな非情なことをしても(比叡山焼き討ちなど)、信長を裏切ったから因果応報だなどと弁護し、逆にその威光を称えています。

信長という人は自分を慕って来る人にはとても手厚いのですが、自分を一度でも裏切ったり、恨みがましいことを言った相手のことは、いつまでも覚えていて復讐する人だと感じました。許すときと許さないときの基準が分かりにくいので、周囲の人は対応が難しかったかもしれませんが、おそらく信長の中では「あの時、あんなに大口を叩いたくせ」とか「何度も忠告したのに、またか」という理由があったと思います。今でもこういう人いますよね。けして忘れない人(笑)
比叡山が焼き討ちに遭ったのも、一度目の警告に従わなかったからなんですね。それにしても、焼き殺すことはないと思うけど。

今回読んでみて特に面白かったのは、合戦とは直接関係のない市井の出来事や人物の記事でした。京都四条糸屋の娘が七十になる母を殺した事件。「山中の猿」と呼ばれる美濃の乞食に信長が情けをかける話、売僧(まいす)と呼ばれる仏教を使って金儲けをする無辺を成敗する話などが興味深い記事がいくつもあります。

相撲好きな信長が催した試合の記事もあります。多くの関取の名が記録されていて、活躍した力士は信長の家臣に取り立てられました。

馬揃えや観能、茶の湯、蹴鞠などの記事もあります。それぞれ参加者の名前や演目などまで細かく記載されています。

相撲とともに信長が好んだのは鷹狩りのようです。各地から珍しい鷹が献上され、それらの鷹を使い寸暇を惜しんで鷹狩りをしています。庶民に鷹狩りの獲物である鶴や雁を賜ったという記事もありますけど、もらった鶴はどうするんでしょう。食べるの?

安土城の様子なども克明に記載されています。七階建ての各階の座敷の装飾まで書き込まれていて、その絢爛豪華な有り様をイメージ出来ます。

哀れだったのは荒木村重と処刑された一族郎党の記事です。村重と妻たしとの和歌のやり取りなどもあり、なんともつらい記事でした。一度は自分に従っていた村重の謀反の噂を耳にしたとき、信長は丁重な説得を試みています。おそらく信長は村重を気に入っていたんだしょうね。ですが、結局裏切られた。こういうときの信長は残酷です。

読んでいくうちに、だんだんと天正十年が近づいてきてドキドキしました。しかし、結局なぜ明智光秀が謀反に及んだかは書かれていません。著者は全体的に自分の個人的な感想や推量を抑えて、客観的な事実に重きをおいています。それにしても、主人である信長に対して謀反を起こした光秀の動機について、ほとんど何も触れていないのはなぜか?
これは『信長公記』を読んだ人が必ず抱く疑問ではないでしょうか。

とにかく、予想以上に面白い内容でした。織田信長や戦国時代に興味のある方はぜひ読んでみてください。現代語訳といってもただの直訳ではなく、分かりやすいように工夫が凝らされています。また地図があることで兵の動きや戦の経緯がよく分かります。今回の版では主要登場人物の索引もついて一層便利です。



地図と読む 現代語訳 信長公記

地図と読む 現代語訳 信長公記

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/09/28
  • メディア: 単行本



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