etc. [詩]
etc. 高平 九
ボールが一つ転がった。台風に裸にされた木々の下のベンチで、老人の細い手がそ
れを拾い上げる。「これはあんたの宝ものかい。」ボールの後を追ってきた少年に
老人は聞いた。「あんたの人生にはな、これより大切なものは二つしかない。それ
は、恋と死さ。後はすべてエトセトラだ。」「えとせとら?へんなの。」駆け去る
少年を静かな笑みが見送る。私もそれにならう。少年が父親らしい男のもとに行き
着くのを見届けてから振り返ると、いつの間にか老人の隣に寄り添う白い老婆があ
り、小さな顔が老人に頬ずりをするところだった。「待たせたわね。」はにかみな
がら、くすぐったそうに身をよじる老人。「人生に大切なものはお前だけだった。
あとは」老婆が引き継いで「エトセトラですね。」二人は声を上げて笑う。そこへ、
またボールが転がった。だが、それを拾い上げる手は、もうなかった。
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ボールが一つ転がった。台風に裸にされた木々の下のベンチで、老人の細い手がそ
れを拾い上げる。「これはあんたの宝ものかい。」ボールの後を追ってきた少年に
老人は聞いた。「あんたの人生にはな、これより大切なものは二つしかない。それ
は、恋と死さ。後はすべてエトセトラだ。」「えとせとら?へんなの。」駆け去る
少年を静かな笑みが見送る。私もそれにならう。少年が父親らしい男のもとに行き
着くのを見届けてから振り返ると、いつの間にか老人の隣に寄り添う白い老婆があ
り、小さな顔が老人に頬ずりをするところだった。「待たせたわね。」はにかみな
がら、くすぐったそうに身をよじる老人。「人生に大切なものはお前だけだった。
あとは」老婆が引き継いで「エトセトラですね。」二人は声を上げて笑う。そこへ、
またボールが転がった。だが、それを拾い上げる手は、もうなかった。
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