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雪 [詩]

      高平 九

年老いた道化師が晩秋の町にいた。銀杏の葉が風に舞うなかを一心に人形を演じて
いる。今日でこの町との契約も切れるのだが、彼には次の町へと流れるあても気力
もなかった。白く塗った顔にふと哀しみが浮かんでしまいそうになるのを必死に耐
えていた。行き過ぎる人々の誰もが彼を一瞥しただけで温かなメッセージを感じ、
心の底から安らぐのだが、一人として何かを返そうとは考えない。ふと道化師の前
に風船が止まった。茶色の瞳の少女が不思議そうに見上げている。彼は今まで何十
年も子供たちに注いだのと同じ笑顔を見せた。しかし少女はただ瞳を曇らせて走り
去ってしまった。老人の気力はにわかに萎えた。膝をついて天を仰ぐと、灰色の深
みから何かが降ってきて、額にやさしくさわった。まるで小さな天使の群れがやっ
てくるようじゃないか、満足した道化師はそっと目を閉じる。雪は彼を庇うように
白く降り続き、やがて雪の止んだとき彼の姿はもうそこにはなかった。


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